目安時間:約
2分
- 2 :以下、名無しが深夜にお送りします :2018/04/21(土) 20:19:18 ID:H.jWFvgM
-
その日、俺はとある馴染みの顧客の元へイギリスのアンティークのティーセットの納品に出かけていた。その顧客はなんでも最近自分で紅茶を入れることにハマり、本格的なティーセットが欲しくなったとのことだった。
「まあ、なんて素敵なの!」
ハイブランドを嫌味なく上品に着こなす60代の貴婦人。
そんな様子の顧客は俺が用意したティーセットを気に入ってくれたようだ。
長年高級ブティックを経営していたという彼女は昨今の不況の日本でも高い買い物をしてくれる有り難い客だ。
「イギリスの古美術商に伝手がありましてね。良さそうな物を見繕ってもらったんです」
「井之頭さんは流石ねえ。今はインターネットでなんでも手に入るっていうけど、こういう本物は通販じゃ中々購入できないのよね」
「ええ。アンティークのような希少で価値のあるものを手に入れるには人間同士の繋がりがどうしても必要になってきますから」
「そうなのよねぇ。ドレスや着物だってそう。ただお金を出せばいいってものじゃないのよ」
うんうんと頷く彼女。
ブティックを経営してきただけに本物の良品を安定して供給する難しさを分かっているんだろうな。
それからしばらく彼女と紅茶の話をしてから、他にいくつかこまごまとしたアンティーク品の注文を受けて、彼女の家を辞した。
comment closed